PoCとは?

実現可能性を検証し、投資判断をするために必要な知識と実践方法のすべて

●PoC(概念実証)とは

PoC(ピーオーシーまたはポック)とは「Proof of Concept」の略で、日本語では「概念実証」という意味です。新規案件・事業の立ち上げや、革新的な技術や手法などを使って製品・サービスを開発する際、その実現可能性を見極めるために行われます。理論やシミュレーションといった机上での検証ではなく、実際に小規模な試作や実装を行い、できあがったもので検証を重ね、企業として投資を行うかどうかの判断をしていきます。

●PoCで何を検証する?

PoCで検証されるのは、主に以下のような項目です。

・技術的実現性

要件を整理し、入念に設計しても、実際に作ってみなければわからないことは多々あります。大きな案件であればあるほど、想定外のことが起こりやすくなります。絵に描いた餅にならないようPoCで技術的な実現性を確認し、リスクを小さくします。

・費用対効果

PoCの最終目的は投資判断なので、費用対効果は最も重要な項目です。投資額に見合った効果が生み出せるか、PoCによって検証することができます。十分な効果が得られないとなれば、導入見送りの判断がなされることもあります。

・具体性

検証フェーズが進むにつれ、より実際に近い仕様を決めていくためにPoCが行われます。現実に使用するときに必要なことを見極めるためのものです。一般的には技術的な実現性や費用対効果が担保されたあと、実施されます。

●PoCが適している業界

PoCの活用が適しているとされる業界は以下の通りです。

・医薬品業界

一般的に新薬の開発には9年〜17年という長い年月をかけて検証を行います。新薬は3段階で認証が進んでいき、そのなかの第II相試験前期のことをPoCと呼んでいます。研究開発中である新薬候補物質が動物またはヒトに投与されたあと、有用性や効果があると認められてはじめて新薬として量産することができます。

・製造業

IoT技術を取り入れたモノづくりが不可欠な製造業にとって、改良しながら製品やシステムを完成品へと近づけていくPoCは、高い効果をもたらします。技術的な実現性や投資効果について、比較的低コストで検証し結果を得ることができるPoCは、失敗というリスクを回避するために、必要不可欠なものといえるでしょう。

・IT業界

新システム導入時やセキュリティ構築の際にPoCを行います。IoTやAIを開発する場合、前例のない施策や技術を活用して多額の投資を行うことが多いため、結果が得られないと損失が大きくなります。そのため導入後の効果などを具体的に測定・評価し、期待した効果が得られると判断してから、実開発を進めていく形が一般的です。

●IT業界でPoCを行うメリット

PoCを行うメリットは、主に以下の4つです。

・開発リスクの軽減

新しい製品やシステムの簡易版を作成し、小規模な検証を行うことで、早い段階で実現可能かどうかの判断が可能となります。PoCでは実際の環境を再現しながら、具体的に検証するため、動作の安定性や使い勝手を確認し、リスクを抑えながら開発が進められます。また、導入後のイメージもつかみやすくなり、不確実性も軽減されます。

・無駄な工数・コストの削減

無駄な工数をかけることなく、コストを抑えて新サービスの導入を実現できます。また、失敗やスケジュール遅れなどによる、無駄な工程・コスト増も削減可能です。さらに、PoCで十分な効果や成果が示されれば、それ以上の時間やコストを費やす必要がないと判断できるので、コスト削減につなげることができます。

・周囲の理解・フィードバック

あらかじめPoCを実施し、技術的実現性や費用対効果に関する根拠を示すことで、周囲の理解が得やすくなります。また現場の従業員に対してPoCを実施することで、動作確認や使いやすさのチェックと、課題やニーズに沿っているか、求める結果を実現できるかなど、さまざまな視点からのフィードバックを得ることができ、問題点を発掘できます。

・円滑な意思決定と投資判断

PoCを通じて、技術的問題がなく、目的に対して十分な効果や成果を示すことができれば、実装イメージやメリットも伝わりやすくなり、実現可能性は向上します。PoCは経営層や投資家の意思決定を促す判断材料としても有効で、開発予算の獲得や投資家からの出資集めに役立ちます。

●IT業界でのPoCのデメリット

数多くのメリットが期待できるPoCですが、実施回数が増えた場合、検証の規模に応じてコストが膨らみます。そうしたことを回避するため、やみくもにPoCを行うのではなく、事前に目的を決め、必要なプロセスを明確にしておく必要があります。

●PoCの流れ

PoCは、ゴール(目標値)設定・試作&実装・検証・評価の4ステップで行います。

1. ゴール(目標値)設定

まずはPoCを通して得たい結果や必要なデータが何なのかを明確にしておきます。PoCはあくまで仮説検証のためなので、PoC自体が目的にならないよう、具体的に目標値を設定することがポイントです。

2. 試作&実装

ゴールとして定めた仮説を検証するために、必要最小限の機能を搭載したシステムを開発します。試作が済んだら、実環境へ実装します。なるべく現場に近い環境で実装するほど、より具体的なPoCの結果が取得可能です。

3. 検証

実装したシステムを使用し、効果を検証していきます。検証にあたっては、できれば実際に使用する人全員に、より実践に近い形で使ってもらい、現場の意見をしっかりと聞くことが大切です。そうしたことにより、客観的かつ説得力のあるデータが得られます。

4. 評価

検証が終わったら、PoCで得たデータをもとに評価を行います。実現可能性の評価だけでなく、PoC実施前には気づかなかった課題も洗い出していきます。この段階でPoC実施前に立てた仮説が覆り、新たな仮説を設定することもあります。

●PoCを成功させるポイント

PoCを成功に導くためのポイントは以下の3点です。

・スモールスタートで始める

PoCはまず小規模から始めます。最初から大規模なPoCを実施すると、検証自体に無駄な時間や工数、費用がかかり、製品やサービスの本質的な価値検証ができなくなります。必要最低限の機能に絞り、仮説を立ててスピーディに始めることが大切です。

・実際の現場と同じ条件で検証する

より正確なPoCの結果を得るためには、現場に近い環境・実際の運用と同じ条件でPoCを実施することがポイントです。同じ環境や条件が用意できない場合も、なるべく似た状況で試したり、仮想環境を用意したりして、より精度の高いデータを収集します。

・目的をぶれさせない

PoCの最終目的は投資判断であることを大前提に、技術的実現性・費用対効果・具体性の内容について、確実に進めていきましょう。PoCに失敗という概念はなく、立てた仮説が検証によって覆った場合はなぜそうなったのかを考え、次のPoCに繋げていきます。

●PoCの注意点

PoCを繰り返すだけでなかなか先に進まず、コストだけが消費される状態は避けなければなりません。PoCで検証を始めたものの、現場とシステム開発者、意思決定を行う経営層の間に認識のズレが生じ、何度もPoCを繰り返しているうちにゴールが明確でなくなり、いつまでも本番開発に進めず、コストと時間だけがかかってしまう恐れがあります。

●PoCはDXの第一歩

DXの成功の第一歩はPoCです。PoCで検証された結果をしっかりと分析し、本番環境で効果を実証、不具合の検証を継続していくことがプロジェクト達成の近道となります。また、数値などわかりやすい効果を出しておくことで、プロジェクトの価値を検証し、その価値を認めた他部署を巻き込みながら推進していくことができます。

PoCは小さく、細かく、丁寧に行う必要があります。いきなり全体を行おうとすると、既存システムとのデータ連携などに問題が発生したり、価値を理解していない他部署との間に障壁が生まれたりして、プロジェクトが失敗する恐れがあるからです。小さく、少しずつ実証・検証を積み重ねていくことで、最終的なゴールに繋げていきましょう。